クラスメイト







【登場人物】

A:女。

B:男。

みっちー:女。口癖は「ふむ」





アドリブ、言い回しの変更はご自由に。








【本編】
(教室、昼休み)


   A:お、あれ? ひとり?

   B:ん、ああ、なんだお前か。

   A:お前とは失礼な。
     一人なんて珍しいじゃん。ツレは?

   B:学食。

   A:えーなに、ハブられてんの?

   B:今日は買い弁なんだよ。もう食い終わったけど。

   A:ふーん。
     あ、ねえねえ、ちょっとちょっと。

   B:ん、なに?

   A:口の中見せてくんない?

   B:――は?

   A:いや、は? じゃなくて、口の中見せてくんない?

   B:嫌だけど。

   A:え? なんで? 口の中だよ?

   B:いや、「だよ?」って言われても。

   A:いいじゃん口の中くらい。
     見せてよ、ほら、あ〜って。あ〜ってしてくれればいいいから。

   B:いやいやしねーよ。
     意味わかんねーだろ口の中見せるって。

   A:見たくなってきたんだって口の中。
     最近見てないしさあ。

   B:そんなちょくちょく見たくなんの?
     こわ、なにそれ。

   A:うん。だからさ、ほら、ね? あ〜って。

   B:いやしねえよ。

   A:えーなんでぇ? いけずぅー。

   B:ていうかそもそも何でそんな見たいの?
     そんなに見たいもんか? 人の口の中なんて。

   A:なんでってそりゃあ。
     見たいから見たいとしか……。

   B:えーなにそれ全然共感できない。
     見てどうすんだよ。

   A:どうするって……あっ……。
     あ〜も〜、え〜ちょっとちょっとぉ。

   B:え、なに?

   A:え〜? も〜う。

   B:えっえっなになに?

   A:やらしい事考えたでしょ、今。

   B:えぇ?

   A:もう、男子っていっつもそうだよねえ。
     別にぃ口の中見たって変なことしないって。

   B:えぇ〜なんなのこいつ。
     言ってる事全然意味わかんねえ。

   A:ね? ほら、だから、あ〜って。

   B:いやしねえよ。

   A:えーなんだよもう。……分かった。
     ……出すよ。

   B:だ……え? なにを?

   A:1000円。

   B:おい嘘だろ。金出てきたよ。

   A:見たいの。

   B:金出てきたらダメだろ。
     金出てきたらそれはもう営利じゃん。

   A:営利だったら駄目なの?
     ロイヤリティ払うって言ってんの。

   B:そういう事じゃなくてさ。

   A:分かった。
     ……2000円。

   B:金額の問題じゃないんだよね。

   A:――クッ。
     3000円。

   B:お前馬鹿なの?

   A:えーじゃあどうしたら見せてくれるって言うのよー。

   B:いやだからそもそも見せねーんだって。

みっちー:まあまあお二人さん。
     なにもビジネスは金のやりとりだけではないんだよ。

   B:うお、なんか出てきたぞ。

   A:みっちー。

   B:ずっと聞いてたのかお前。

みっちー:聞こえてたんだよ。となりの席だからね。
     で、君たちに新しいビジネスプランを提案しようと。

   B:話をややこしくするんじゃねーよ。

   A:えーでもあたし。お金以外に払えるものなんて。

みっちー:あるよ。もっと原始的に考えてみよう。
     通貨ができるずっと前の時代、経済活動の出発点。
     共通の価値を感じる貝や石などが、欲しい物との交換で使われていた。
     その、もっと前……。

   A:つまり?

みっちー:物々交換だよ。

   B:さっきやった授業の内容を悪用するな。

みっちー:現在のお金の役割を、特定の物品が担っていた、と考えると分かりやすいね。

   A:いやだから、あたし他に出せる物なんて。

みっちー:君は彼の口の中を見たい。そうだね?

   A:え、うん。

みっちー:君は彼の体の一部を見たい。
     だったら君も、彼の望む、君の体の一部を見せればいいんだよ。

   B:いいんだよじゃねーんだよ。

   A:私の……一部?

みっちー:さあ、次は君だ。

   B:え、俺?

みっちー:自分の口の中を見せる。その価値に見合うものを彼女に要求するといい。

   B:見合うって……。

みっちー:おっと。おっぱいを見せろなんて言うんじゃないよ。
     等価を超えた要求はするもんじゃない。
     おっぱいを見せろなんて言ったら、君はキャンターマを見せなきゃいけなくなる。

   B:お前、自分が今なに言ってるか分かってんのか。

   A:そ、そんな、あたしは口の中が見たいだけで、
     別にキャンターマが見たいわけじゃ……。

   B:いやいやそもそも見せねーって。口の中もキャンターマも。

   A:それに、
     あたしのおっぱいとこいつのキャンターマが等価ってのも納得いかないし。
     おっぱい見るならそっちもおっぱい見せるべきじゃない。

みっちー:一理ある。

   B:ねーよ。俺おっぱいねーし。
     っていうかそもそもおっぱい見たいとは言ってないよね俺。

みっちー:ふむ、それじゃあ君は彼女のどこを見ることを望むんだい?

   B:望むって言われても……見たい所なんてこれと言ってねーわ別に。

みっちー:では、こちらに聞こう。

   A:え、あたし?

みっちー:君は彼の口の中を見るためなら、どこを見せても良いと考えるんだい。

   A:え、えーそう言われるとなあ……。
     パ、パンツとかはさすがにやだし……。

みっちー:口の中は普段外には見えないが、だからと言って特段隠す必要のない場所だ。
     なるべく、それに準ずる場所を選ぶといい。

   A:えー? じゃ、じゃあ……わきの下……とか?

みっちー:ほう。

   B:――いいのか?

   A:えっ。

   B:見せてくれるのか? わきの下。

   A:えっちょ、なに?

   B:見せるって言ったよな? 今。
     わきの下見せるって。言ったよな? な? な?
     聞いたよな? お前も。

みっちー:聞いたね。

   A:ちょ、ちょっと待って。めちゃめちゃがっついてくるじゃん。
     なに、どうしたの?

   B:どうしたもなにも、
     お前がわきの下見せるって言うからこっちが了承したんだろうが。
     見せろよ、ほら、はやく。見せろって。なあ、おい。

みっちー:まあまあ落ち着いて。

   B:ああそうだ。口の中、口の中だったな? いいぞ? ほら。
     見ろよ。なあ、ほら、見ろって。そんで見せろって。
     ほら、見せろよ。見せろって。なあ、見せるって言っただろ。
     なあ! おい! おい! 見せろ! 見せろよ! ほら!
     おい! はやく! はやくしろよ!! ほら!! はやく!!
     ほらほらほらほらはやくはやくはやくはやくはやくはやくはy

みっちー:落ち着け!!!(ビンタ)

   B:ぐは!!!
     ……はぁ……はぁ……はぁ……。

みっちー:どうどう。

   A:え、ええぇぇ……。な、なんなの今の……こわ。

みっちー:ふむ。どうやら「わきの下」が彼の琴線に触れたようだ。

   A:えーなにそれ、どういうこと?

みっちー:性癖にぶっ刺ささったんだよ。
     ぐさりとね。

   A:ぐさり……。
     それであんななっちゃうの?

みっちー:なっちゃうんだろうね。

   B:はぁ……はぁ……。
     悪い……取り乱した。

みっちー:落ち着いたみたいだね。

   A:ほんとやめてさっきの。
     すっごい怖かったから。

   B:悪かったって。
     わきの下とか言われたらな、その、つい……へ、へへへ

   A:ニヤニヤすんなよ気持ち悪い!

みっちー:まあともかく、お互いの対価は決まったようだね。

   A:え、ちょ、ちょっと待って。あたしまだわきの下見せるって決めたわけじゃ。

   B:あ?

   A:いや、だって、あんなにがっつかれるとなんか、
     ちょっと……恥ずかしいっていうか。

   B:ああ?
     なにほざいてんだこのやろう。こっちは口の中見せる覚悟は決まってんだよ。
     わきの下のためにな。
     お前もそれに応えるべきじゃねーのか?

みっちー:ふむ。君だって、口の中を見たくないのかい?

   A:そ、そりゃあ見たい……けど、さ…………。
     あーもう! 分かったよ! 見せればいいんでしょ!

   B:お! へへっそうこなくっちゃな!

みっちー:ではこれで契約成立だ。

   B:ちょっと待ってくれみっちー。

みっちー:ん? どうした?

   B:そのー、あれだ。ほら、あの、写真……な? へへへ。 
     写真とか……は、へへ、撮っていいのか?

   A:はあ? もごもごもごもごしやがって。
     なに言ってんのあんた。
     写真? 馬鹿じゃないの? きっも。

みっちー:写真、ね。ケータイで?

   B:ケータイで。

みっちー:ふむ。して、対価は?

   B:――キャンターマ、……片側。

みっちー:ほう、価値を刻んできたか。

   A:待て待て待て待て待って待って!
     待ってみっちー、勝手にビジネス進めないで!
     わきの下の写メ撮るってなに? 意味わかんないよ!

   B:うるせえ! こちとら片キャン差し出してんだ!
     今さらヒヨったって後には引けねーぞ!

   A:別に片キャン出せなんて言ってないでしょ!
     だったらあたしも口の中の写メ撮らせてよ!

みっちー:おっと、それでは片キャン分の価値が不等になってしまう。

   A:だからいらないんだって別に! 片キャンは!
     求めてないんだってあたしは!

   B:おいおい据え膳食らわば皿までだろうが! 食えよ! 皿まで!
     片キャン受け取れよ!

   A:ことわざ絶対間違ってるし!
     いらないいらないあんたの片キャンなんて別に!
     見たくもないし!

   B:駄目だ! 口の中と片キャンは抱き合わせのセット販売なんだよ!
     今ならお値打ち、わきの下を見せて写真を撮らせるだけでいい!
     どうだ、お買い得だろ?

   A:いやいやいやいや絶対いや!
     そもそも写メなんて撮って何に使うの気持ち悪い!

   B:おいおい気持ち悪いとはなんだ!
     お前だって本当は見たいんだろ。素直になれよ!

   A:はぁ? バッカじゃないの?
     そんなもん見たがる奴なんてこの世にいないって!

みっちー:私は見たいぞ。


一拍。


   A:はぁ?

   B:いやお前が見たがるのかよ。

みっちー:ああ。滅多に見られるものでもないしね。

   A:えぇぇ、ちょっとちょっとみっちー。えぇ?

みっちー:なんなら私のわきの下を見せてやってもいい。
     それで君の片キャンを見せてくれるならね。

   B:え? マジ? み、見せてくれんの? へへへっ。

   A:ちょ、ちょっと待ってよ。

   B:あん? なんだお前まだいたのか。すっこんでろよ。
     こっちは大事な取引きの真っ最中だ。

   A:いや……その……あたしも……見たいかも。

   B:はあ?

   A:あんたの……片キャン。

   B:おいおい、なんだそりゃ。
     どういう心変わりだよ。

   A:どうだっていいでしょ。別に。

   B:まあ、いいけどよ。

みっちー:おやおや、ならば私の出る幕ではないようだ。

   B:よし、それじゃあ……契約――

   A:――成立。ね。


みっちー:……この後、双方による開示が行われ、なんやかんやあって
     二人は付き合う事になったとさ。
     ――おしまい。




END