誕生日







≪登場人物≫



A:男 学生。

B:男 学生。






性別、アドリブ、言い回しの変更はご自由にどうぞ。


















≪本編≫




A:よう。

B:うお、え? え?
  え、なに? え?

A:お邪魔するよ。

B:いやいやいやお邪魔するよじゃなくて、なに?

A:なにって? え? なにが?

B:なにがじゃないよ。急に入ってくんなよ。
  びっくりするだろ。

A:ここ座っていい?
  ――よっと。

B:おいおいおい勝手にくつろぎだすなって。
  いきなり来てなんだよ急に。

A:ああごめんごめん。
  別に驚かせるつもりはなくて。

B:いやいや、いいんだけどさ。
  急に部屋に入ってくる時間じゃないでしょ。
  もうほら、ちょっと時間考えろって。
  下に母ちゃんいなかった?

A:いたいた。
  いたけど、「友達です、ちょっと用あって」
  って言ったら案内してくれたよ。

B:ああ、それはするわ。
  するだろうけどおかしいと思ってるよ絶対。
  こんな時間に人来て。

A:え、そうかな。

B:今何時だと思ってんの?

A:夜中の11時。

B:やばいじゃん。

A:やばいかな。

B:やばいよ。アポなしで来る時間じゃないんだよ。
  コンビニじゃないんだから。

A:まあいいじゃん。細かい事はさ。

B:お前が言うことじゃないんだよそれ。

A:だってほら、俺たちの仲だろ?
  気にすんなよ。

B:だからそれお前が言うことじゃないんだよ。

A:いいじゃんいいじゃん。
  なにしてたの? 今。

B:いや話きけよ。
  別に何もしてねーよ。
  テレビ観ながらそろそろ寝るかなーって思ってたとこ。

A:え、マジ? 寝るの早いな。

B:そうか?
  まあ、明日も学校あるからな。

A:朝練?

B:朝練はないけど、ちょっと走ろうかと思って。

A:えーマジかよ自主トレ?
  めっちゃやる気あるじゃん。

B:そんなんじゃないって。
  もともと体力ある方じゃないからさ。
  こういうとこで追い付いていかないと。

A:いやーでもすごいって。
  俺には真似できないなあ。

B:そうかあ?

A:そうだよ。

B:ふーん。

A:ああ。


   一拍。


B:いや帰れよ。

A:え?

B:何しに来たのお前マジで。
  世界一どうでもいい話しちゃったよ、寝る前に。
  明日走るのに。

A:ああ、そうだな。頑張れよ。

B:いやいやいやいや違う違う違う。
  なんなのお前ほんとマジで。
  帰れって。

A:え?

B:帰れってほんと。何しに来たの?
  何も用ないなら帰ってくれよ。

A:帰れなんてひどいだろお前。
  今日誕生日なんだぞ?

B:た……え? 誰が?

A:俺。

B:お前?

A:うん。

B:ああ、そうなの? うん。
  ……で?

A:ああ、誕生日なんだよ。

B:いや別に聞き返してる訳じゃなくて。
  誕生日だから何? 何し来たの?

A:……ってくれよ。

B:え?

A:祝ってくれよ!!!

B:うおびっくりした!
  急に大きい声だすなよ。

A:ああ、ごめん、つい。

B:家族いるんだからさ。
  となりの姉ちゃんに怒られるだろ。

A:ごめんごめん。
  ……祝ってくれよ。

B:普通の声で言えばいいってもんじゃないんだよ。
  知らないよお前の誕生日とか。
  ――ていうかさ。

A:なに?

B:あーいや、あんま言いたくないんだけどさ。

A:なになに?

B:俺ら、そんな仲良くないよね?

A:え?

B:いや、仲良くないっていうか、その、話したこと、あったっけ。

A:え? ごめん、俺の事、嫌い?

B:いやいやいやそういうんじゃなくて。
  嫌いとかじゃなくてさ、家に急に来たりとか、
  そういう仲じゃなくない?

A:おいおい何言ってんだよ。
  同じクラスだろ?

B:いやそうなんだよ。それは分かってんだよ。
  同じクラスなんだけど……仲良くはないよね?

A:えー? そうかなあ?

B:だって話したことある? 学校で。俺とお前。

A:あー、そう言われてみれば無いかも。

B:無いかもじゃなくて無いんだって。
  ってか、そもそもの話だけどなんで俺の家知ってんの?
  そこからおかしいじゃん絶対。
  教えてないよ俺、お前に家。

A:えー?

B:え、なんで? なんで来たのここに。

A:あー、ほら。俺今日誕生日じゃん?

B:いや聞いた聞いたそれは聞いた。

A:うん、でな? 誰にも祝われることなく1日が終わろうとしてな。
  残り1時間、夜中の11時に差し掛かろうとした時だよ。
  焦る俺の目に入ってきちゃったんだよなあ。

B:なにが?

A:緊急連絡網。

B:え、クラスの?

A:うん。

B:で?

A:一番近い住所がここだったってわけ。

B:嘘だろ?

A:ほんと。

B:で来たの? うちに。

A:うん。

B:やっばあ。

A:え?

B:やっばあ、お前マジで。
  こっっわ。

A:え、怖い?

B:こえーよ。

A:怖いかな。
  だって一番近かったんだよ? 緊急だよ?

B:「だよ?」じゃねーんだよ。
  いかれてんのかお前。

A:そんな、俺は純粋に祝ってほしくて。

B:純粋通り越して狂ってるよ。

A:ごめんごめん。
  たしかに、あんまり話した事ない奴んとこに来たのは軽率だったよ。
  でも、これから仲良くしてこーぜ。

B:無理だよ。
  第一印象が怖すぎるもん。
  今すぐ帰ってほしい。

A:気にすんなって。

B:いやいや無理無理。

A:……すんなよ。

B:え?

A:気にすんなよ!!!

B:うおびっくりした!
  やめろってその小声から大声のやつ。
  なんだよそれ気に入ってんのか。
  わざとだろ。

A:……じゃないよ。

B:え?

A:わざとじゃないよ!!!

B:いやだからやめろようるせーな!
  あんま騒ぐなって。
  姉ちゃん怒ると怖いんだから。

A:ごめんごめん。
  まあでもいいじゃん、来ちゃったもんはさ。

B:何様なんだよお前。友達でもねーのに。

A:プレゼントある?

B:あるわけねーだろ。

A:おいおい、誕生日にプレゼントも用意してないのか?
  友達なのに。

B:おいやめろ。勝手に友達認定するな。

A:なんでもいいからくれよプレゼント。ほら。

B:そんなこと言われたって急に出ねーよ。
  なんもないって。

A:うーん。
  あ、お前さっき、となりに姉ちゃんいるって言ってたよな?

B:え? ああ、いるけど。

A:うん………………な?

B:「な?」じゃねーよ。なんだお前気持ちわりーな。

A:いやいやお前の姉ちゃんの…………な?

B:キッモお前マジで。何が望みだよ。
  俺が殺されるっつーの。

A:えー? じゃあプレゼントないの?

B:ねーよ。帰れよ。

A:ケーキは?

B:は? それこそねーよ。

A:ケーキまでないの?

B:までとか言うな。どっちかあるみたいな言い方やめろ。
  どっちもねーから。

A:買ってきてよ。ケーキ。

B:ずうずうしいにも程があるだろお前。
  なんでお前の誕生日に俺がそこまでしなきゃいけないの。
  帰れって。

A:頼むよ。お願いだから。
  祝ってくれって。

B:お願いされても困るよ。
  お前の誕生日なんて今知ったんだって。
  そんな奴に祝われても嬉しくねーだろ?

A:御託はいいからさ。
  早く買って来いって。

B:おいおいおい嘘だろ。
  なにその言い草。
  お前マジで殴るぞ。

A:やってみろよ。
  殴ったら下にいるお前の母ちゃんブン殴るからな。

B:えええ? なに? なんで?
  いよいよ言ってることおかしいぞお前。

A:な? だからケーキ買ってきてくれって。

B:いやそもそもやってねーだろこんな時間にケーキ屋。

A:コンビニでいいから。コンビニなら売ってるきっと。
  ケーキと名のつく物ならなんでもいいよこの際。
  チーズケーキとかでもいいから。

B:いやほんとお前何様なの?
  だったらここに来るまでに自分で買って来れたろ。

A:自分で買ったら意味ないじゃんそんなの。

B:……(ためいき)
  オッケーわかった。
  いいよ、買ってくる。

A:お、やったぜ。

B:買ってくるけど、買ってきたらマジで帰れよ?

A:うん、わかった。

B:ほんとだな?

A:うん。

B:よし、じゃあちょっと待ってろ。


   間。


B:ほらよ。
  お望みのチーズケーキだ。

A:よーし、封を開けろ。ゆっくりとだ。

B:あー、もう。
  ……はいよ。

A:ロウソクは?

B:ねーよ。

A:……チッ。

B:舌打ちすんな。

A:まあいい。電気を消せ。

B:は?

A:そして歌え。俺のために。

B:いいから食えよさっさと。
  そんで帰れ。

A:歌もなしにケーキが食えるか。
  歌えってほら、早く。
  心を込めて。

B:うるせーな。ケーキ買ってきたんだからいいだろ。
  もう帰れって。帰れよ。

A:なんだお前。

B:ああ?

A:帰れ帰れって、失礼じゃないのか?

B:はあ? どっちが失礼なんだよ。

A:こっちは誕生日なんだぞ。

B:知るかよそんなの。もう充分だろ。
  帰れよ早く。

A:おい、おいおいおいおい!
  なんだお前さっきから!
  それが誕生日の友達に言うことか!

B:うるっせーな!
  お前なんて友達じゃねーんだって!
  いい加減にしろ!

A:いい加減にするのはそっちの方だ!
  歌えよ早く! 歌え! そして踊り明かせ!
  朝まで!

B:嫌だよ!

A:二人の思い出を語り合おう!

B:だからねーんだよ! お前との思い出なんか!
  これっっぽっちも!

A:ええい! もういいお前が踊らんなら俺が踊るぞ!
  ――んん、しょっと。

B:おおおなんだなんだ!
  やめろやめろ脱ぐな脱ぐな!

A:邪魔するな!
  踊るときは上裸と決まってるだろ!

B:決まってねーよどこのしきたりだよ!

A:踊れ! さあ踊れ!
  踊れ踊れフッフゥー!
  イェイ! イェイ! ベィビー!

B:うわあ気持ち悪い何だその踊りは!
  やめろ! 人の部屋で勝手に踊んな!

A:めでたい! めでたいぞ!
  さあお前も踊れ! さあ!
  エビバディセイ! フッフー!
  オウイェー!

B:やめろって!
  ドタドタすんな! 家族いるんだから!

A:オウそうだった!
  この家にはお前の家族がいるんだったな!
  フッフー!
  さあこの家を波乱のドン底に突き落としてやろう!
  イェ!

B:なんでだよ!
  お前ちょっと落ち着けって!

A:まずはとなりの部屋にいるお前の姉ちゃんからだ!
  いくぜぇ待ってろよクソビッチ!

B:あ、ばかやめろ!

A:フッフー!

B:おい待てって!
  あ、ああ〜、行っちまった……。


   間。


A:ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……。

B:おかえり。

A:ハァ……ハァ……。

B:どうだった?

A:すっげぇ殴られた。

B:だろうな。顔ボッコボコじゃん。

A:なんで部屋に木刀あんの?

B:元ヤンだからな。

A:ああ、そうなの? 
  ……いってぇ…………。

B:ドンマイ。

A:……帰るわ。

B:おう。

A:じゃあな。

B:うい、じゃあな。
  ――ハッピー・バースデー。








END