隠しごと












A 男。

B 男。

アドリブや言い回しの変更はご自由にどうぞ。









A:なー? なー……おーい。

B:ん?

A:なにぼーっとしてんだよ。これの次の巻ねーの?

B:ああ、わり、まだ買ってないわ。

A:んだよつかえねーなあ。

B:人んち来てそれはないだろ。

A:じゃあなんか別の読むかあ。えーっと。

B:……なあ。

A:どれにしよっかな。お前の部屋来るのも久々だから色々増えてんなあ。

B:なあって。

A:これでいっか。

B:なあって、おい。

A:ん? なんだよ。

B:話があるんだけど。

A:おーなになに。

B:いや、ちょっと一回漫画置いて。

A:え、なんだよ。ガチなやつ?

B:まあ……わりと。

A:えーなに、こわ。なに?

B:あー……えーっと。

A:なになに。なんだよ。

B:あの、さ……。

A:うん。

B:俺……彼女いるじゃん?

A:ん、ああ、サキちゃんだろ? 

B:うん。

A:知ってるよ。それがどうした?

B:なんか、最近さ、仲良いよな。……お前ら。

A:そっかぁ? まあ同じクラスだしな。そこそこ話したりはするけど。

B:そっ……か。

A:うん。まあ。


一拍


B:何かさ、隠してることないか? お前ら、俺に。

A:隠してること?

B:ああ。

A:いや、別にないけど。

B:あるだろ。

A:あるかなあ。

B:いいから、正直に言ってくれ。お前は俺の親友だし、サキも大切だ。
  だからこそ、正直に言って欲しい。

A:いや、正直にって言われても……。

B:見たんだよ。

A:え?

B:お前らが仲良くやってんのは俺も望むところだったし、気にしてなかった。
  でも、見たんだよ。

A:見たって?

B:その、夜中、ふたりで街を歩いてんの。

A:え、いつ。

B:別にいつかはどうだっていいだろ。なにしてたんだよ。

A:なにって……。

B:あんな時間に、あんな場所で、なにしてたんだって聞いてんだよ。
  ……もう一度聞くぞ。お前、俺に隠してることないか?


一拍


B:黙ってちゃ分かんないだろ。なあ、俺達、友達だろ?

A:(ため息まじり)そっか……そうだよな。やっぱお前に隠し事はできねえか。

B:え、じゃ、じゃあやっぱりお前ら……。

A:いつから感づいてたんだ?

B:結構前から、なんとなく……。でも、確信を持ったのは街でお前らを見てから。

A:はは。そっかそっか……。やっぱりお前には適わねーわ。
  で、このこと、誰かに話したか?

B:そんな、話せる訳ないだろ。

A:だよな。誰に言ったって信じるはずもない。

B:そうだよ。お前は良い奴で、みんなの人気者で、何より俺の親友だ。
  それなのに、なんでこんな。

A:なんで、か……。言うなれば、運命ってやつかな。

B:は? 運命? サキと一緒にいることが?

A:抗いようのない流れってやつさ。サキだってそれを受け入れてる。

B:え、ちょそんな、サキも?

A:ああ、しばらくは一緒に行動することになりそうだ。

B:行動って、お前なに言って……。

A:待て待て。別に俺が無理強いしてる訳じゃない。
  単純な戦闘能力ならサキのが上なんだ。





B:……えっ?

A:サキが話の分かるやつで良かったよ。
  知っての通り、共闘は禁止されてるし、
  戦績争いなんてよくあることだ。
  ……同じ組織なのにな。

B:えっ……そし?

A:サキとはたまたま管轄が同じになっただけだ。
  支部ごとに牙持ち《きばもち》の素性は秘匿されてるからな。

B:きばもち……。

A:で、まあお互いに素性に気づいて、俺から共闘を申し込んだってわけだ。
  支部は違うが、仲間は多いほうが良いからな。
  俺は戦績なんてもんに興味はない。
  奴らが……憎いだけだ。

B:やつら……。

A:両親を――殺されたんだ。

B:ぇぇぇ……。

A:おっと、すまんすまん。つまんねえ話をする所だった。
  日中は普通の学生生活を送ろうと思ってたんだけどな……。
  見事お前には見破られちまったって訳か。







B:あ、うん。知……ってたよ。……うん知ってた知ってた。
  いや、怪しいと、思ってたん……だよね。前から。

A:はは。そうそう。サキともそうだった。
  いくら組織が隠したって、牙持ち同士はなんとなく分かっちまうんだよ。
  ……で、知ってどうする。

B:ん?

A:……お前も、『そう』なんだろ?

B:えっ俺も?

A:ノーマルじゃ俺達の正体に気付けるはずがない。
  回りくどいやり方はよせ。
  禁則を破った俺たちを組織に報告するのか。

B:えっ、あー。

A:いや、わざわざ本人に伝えてきたんだ。まずは忠告……ってところか。

B:あ、うん。

A:お前、所属はどこだ。

B:え? 所属? えーっと……あの……あれ……あのー……
  あっ、ひがし……の方?

A:東? まさか、陸奥《むつ》第三支部か!?

B:お? おう、そうそうそうそれそれそれ。

A:あそこは選りすぐりの適合者のみが送られると聞く。
  道理で、お前だけは牙持ちだと分からなかった訳だ。

B:てきごうしゃ……。

A:このこと、サキは。

B:しらないとおもう。

A:だろうな……。
  お前の任務はさしずめ、俺たちの監視役ってところか。
  はっ、皮肉なもんだな。仮初の平穏を求めてお前のそばにいたはずなのに、
  まさか、お前もこっち側だったとは。

B:なんか、うん。ごめん。

A:お前が謝ることじゃねえよ。
  組織が一枚岩じゃねえってことは俺だって分かってる。

B:大変……なんだな。その、お前も。

A:第三支部のエリートさんに言われたら肩無しだな。
  そんなに俺たちは信用ないってか。

B:いや、えーっと、その。そういう訳じゃ、ないと思う、よ?

A:……まあそれはいい。で……悪いが、ひとつ教えてくれ。

B:ん? なに?

A:サキとの関係は、任務に必要なことだったのか?

B:え、あー……えっ?

A:答えろ。
  サキはお前が牙持ちだということを知らない。
  それがどういう事か分かるか。

B:どういうことって。

A:人としてのお前に惹かれたということだ。
  俺たちは人間社会の影に生きる存在。
  常在戦場。恋慕《れんぼ》の情など足かせにしかならない。
  それでも彼女はお前を慕っている。
  お前との日常を守るために戦っている。
  人類守護の使命を受けた戦士の前に、一人の女として。
  ……お前はそれに、どう答える。

B:どうって……。

A:どう思ってるのかってことだよ。サキのこと。

B:えぇっと……。

A:どうなんだよ。……答えろよ。





B:――愚問、だな……。

A:なに?

B:愛しているよ。彼女のことは。

A:え……。

B:最初はただの監視対象だった。最初は遠くから見ているだけだったんだが、徐々に興味が湧いてな。
  ノ、ノーマルを演じて近づくことにした。
  同じ時を過ごすうち、気づけば彼女に、任務以外の感情を持っていることに気付いた。
  そしてそれは、お前に対しても同じだ。

A:――そ、そうか……。なんか、照れるな。ありがとう。

B:感謝するのはこちらのほうだ。こんな感情は長いこと抱いたことがなかった。

A:でも、安心したよ。第三支部って聞いた時は身構えちまったけど、お前はお前なんだな。

B:支部は違っても同じ組織だ。それに俺は本当にお前のことを友達だと思っているよ。

A:お前……。

B:これからも仲良くやっていこうじゃないか。組織のことは忘れて、な?

A:いやいや、第三支部の人間なんかに会えたんだ。もう少し話させてくれよ。


一拍


A:どうした?

B:いや、なんでもない。聞かせることなんて何もないさ。あそこは血と泥にまみれた獣の巣穴だ。
  だから話すことなんてない。いいな?

A:あ、ああ。そうか…悪い。そうだよな。言いたくないことだってあるよな……。

B:分かってくれるか。

A:あ、じゃあ、最近はどこでやったんだ? それくらいはいいだろ?

B:やった?

A:指令だよ。戦闘指令。最近は奴らも活発だ。

B:ああ、戦闘指令か。
  最近はお前らの監視が任務でな。しばらくは。

A:最近じゃなくても、何かあるだろ?

B:ん? 前のか? 前の……。前のな。
  あのー、あれ、あれだ。海……でな。

A:海? 焼津戦役《やいづせんえき》……。お前も参加してたのか。

B:そう、それだ。

A:組織戦力の3分の1が戦線に立ったと聞く。
  あんな大規模の断覚《だんかく》も今まで見たことなかったし。

B:そうだな、俺もだ。

A:かなりの総力戦だったけど、
  第三支部からも投入されてたのか。知らなかったよ。

B:ああ、結構雨が強くてな。手こずった。

A:雨? そうか? 俺も前線には参加したけど、あの日は晴天だったような。

B:雨のような攻撃がすごくてな。手こずった。
  なんか、こう、すごいブワーッて向かってくるから、
  避けるのに精いっぱいだった。

A:へえ、近接型か。凌げたのか?

B:ああ、一発ハラにもらったが、何とかなったよ。

A:もらった? 奴らの打撃を食らったのか?

B:一回だけな。

A:嘘、だろ……。並みの牙持ちじゃ近接型の一撃で消し飛ぶぞ。

B:そうなのか。きっと運が良かったんだな。

A:そうなのかって……。
  ――…………見ろ。

B:なにこの傷あと。

A:俺も近接型とはやり合ったことがある。
  俺の牙は近接型と相性が悪くてな。そん時に攻撃がかすったんだ、ほんの薄皮一枚。

B:痛々しいな。

A:9針縫った。俺は腕だけど、お前はこの攻撃をハラにもらって何ともねーのかよ。

B:ああ、一回くらいなら大丈夫だ。

A:おいおい、第三支部所属は伊達じゃねーな。
  牙が防御型なのか。

B:牙?

A:俺の牙は攻撃特化過ぎて守りが苦手なんだよ。
  まあ、防御型でも奴らの一撃をマトモに食らって生きてる奴なんて知らねーけど。

B:いや、牙、とかは持ってないな。

A:はぁ?

B:え?

A:牙がないって?

B:ん? ああ。

A:おかしいだろ。牙持ちなら誰だって牙を持ってる。
  ノーマルじゃあるまいし、適合者だったら試験後に付与……
  あっ、いや、待て。待て待て。

B:どうした?

A:いやでも、そうか。だったら奴らの攻撃を受けても無傷なのが納得がいく……。
  ……お前、まさか。
  原初の5人《オリジナル・ファイブ》……なのか?

一拍

B:――……知っているのか。

A:あ、当たり前だろ。
  8年前、奴らの出現と同時に現れた特異点。
  異能をもって最初の災厄を払った、5人の英雄。
  俺たちの牙は、その異能を元に模造されたまがいもんに過ぎない。

B:おおげさだな。そんな大層なものじゃない。

A:ただの噂話だと思ってたのに実在したのかよ。
  サキが聞いたらぶったまげるぞ。

B:一番驚いているのは俺だと思う。

A:そりゃそうだ。8年前なんて、俺もお前も出会っちゃいないがまだガキだったしな。
  お前はそんな頃から奴らと戦ってたのか。

B:オリジナルバイブの素性を知っているのは牙持ちの中でも少数だ。

A:ファイブだろ。

B:ファイブだ。そう言ったろ。
  だからお前が知らないのも無理はない。
  第三支部の地下室が俺のねぐらだ。
  そんなところに近寄るやつもいない。

A:地下? 第三支部は丘を模した高層ビルだと聞いてたけど。

B:地下もある。あるんだよ。わりと広めのな。

A:さすが待遇が違うな。
  周りの奴らもビビって寄り付かないだろ。

B:そんなこともないさ。
  任務はいつもグループでやっている。
  その方が効率も良い。

A:グループ……。

B:ああ。

A:禁則だろ。

B:あ、いや、俺はほら、オリジナルファイブだから。

A:だからこそだ。
  焼津戦役みてーな大規模戦闘を除いて、牙持ちの共闘は認められてない。
  例外なくな。

B:そうだったな。でも俺は、組織から許可をもらっている。

A:おいおいマジかよ。組織公認の直属部隊なんて、俺はひとつしか知らねーぞ。
  ……お前、まさか。
  沈黙する軍勢《サイレント・レギオン》……なのか?

一拍

B:――……知っているのか。

A:お前ぇl!!

B:うお! ぐっ……ど、どうしたいきなり!
  は、離せって! なんだよ!

A:お前の、お前らのせいで父さんと母さんは!!

B:何の話だ!

A:お前らが! あの時もっと早く!

B:落ち着けって!

A:――ハッ。
  わ、わりぃ……つい。

B:ど、どうしたんだ急に。

A:いや、すまん。……そうだよな。
  お前は悪くないよな。お前は任務に従っただけだ。

B:過去に、何かあったのか?

A:はっ、そうか。覚えちゃいねーか。
  じゃあ4年前、山奥の村落に任務に行ったのは?

B:ああ、覚えている。

A:だろうな。……奴らは人口密集地に出現するのが常だ。
  人里離れた集落に現れるなんて観測室にとっても前代未聞。
  出現予測が遅れた結果、牙持ちは間に合わず、村は壊滅した。
  ……俺一人を除いてな。

B:あの時か。すまない。俺たちが到着した時にはもう。

A:知ってるよ。それは俺が一番よく知ってる。
  黒装束にマスクして、敵か味方か分かりゃしなかったけどな。
  泣き喚く俺の前で、あんたらは奴らを圧倒して、蹂躙した。
  まるでゴミみたいにな。
  今でも鮮明に思い出すよ。
  音もなく奴らを屠る姿はまさに、沈黙する軍勢《サイレント・レギオン》

B:それが任務だ。

A:そうだよな。さっきは悪かった。本当は感謝してるんだよ。
  俺を保護して、さらに適合者としての才を見出されて牙までもらった。
  ――奴らを穿ち、咬み砕く牙だ。

B:すまん。

A:いいんだよ。気にすんな。
  悪いのは奴らと、あの時無力だった俺だ。
  あんたらの任務遂行は完璧だった。……この上なくな。
  あの時からずっと噂は聞いてる。

B:うわさ?

A:――漆黒の聖者。
  ――東洋の黒き風。
  あんたらの異名は数えたらキリがねえ。
  そしてその総大将。
  血濡れの悪魔《クリムゾンキャップ》
  お前みたいな化け物がなんでこんなとこに……。

B:言っただろ。お前たちの監視だと。

A:そんな訳あるか。
  俺みたいな末端の牙持ちの監視に、Sクラスが付く訳ねーだろ。
  言えよ。本当の理由を。

B:聞くのか。疑問を持ちながら。
  疑問は疑問のままでいた方が良い事もある。

A:なめんな。だいたいの見当は付く。

B:ほう。

A:出現予測だな。

B:御名答。

A:俺に観測室からの情報は来てない。
  そんなにやばい奴なのかよ……。
  時間と座標は?

B:来週の今日。駅前のあたりだ。

A:C区画……。サキの管轄じゃねーか。
  っておいおい待て待て。
  お前は、俺たちの監視の裏で待機指示を受けてたってことか?

B:そういうことになるな。
  指令を受けたのは数年前だ。
  それから俺は、ずっと奴の出現を待ってる。

A:ずっとって……。来週のためにか?

B:いや、出現予測はもっと前からあった。
  何度か観測室からの指令を受けて現場に向かったんだが、
  奴はいなかった。

A:観測室が見誤るハズがねえ。
  干渉障壁《かんしょうしょうへき》を越えてるのか。

B:ああ、おそらくな。
  だから、来週も現れないかもしれない。
  それに、お前に指令が下りないのがどういうことなのか、
  考えれば分かるだろう。

A:干渉障壁を越えるクラスの奴なんて、組織の教本でしか知らねーよ。

B:だろうな。
  だからそいつのことは俺に任せて、お前は大人しくしていればいい。
  俺は今まで通り奴を追うし、お前たちの監視も続ける。
  お前はお前の役割を全うしろ。
  せめて日中は組織のことは忘れて、いつもの日常に戻ろうじゃないか。

A:……ざけんなよ。

B:何?

A:ふざけんなよ。そうやってまた俺を見下すのか。
  もう俺はあの時のガキじゃない。牙持ちなんだ。

B:待て。何を言ってる。

A:良いご身分だな。原初の5人《オリジナル・ファイブ》で、
  陸奥《むつ》第三支部所属で、おまけに
  沈黙する軍勢《サイレント・レギオン》の
  血濡れの悪魔《クリムゾンキャップ》ときた。
  さぞ優越感に酔いしれてるだろうよ。

B:よせって。そんなつもりで俺は。

A:3日後だ。

B:は?

A:3日後。俺と勝負しろ。

B:いや、待て待て。

A:ああ、分かってるさ。お前とやり合うのがどれだけ無謀かってのはな。
  でも俺は、力を示さなきゃならない。これは俺の試金石だ。

B:考えなおせ。そんなことをしたって何もならない。
  俺たち、友達だろ?

A:……悪いな。
  矜持が必要なんだ。
  ――3日後、港の第三倉庫だ。
  断覚《だんかく》は俺が張る。

B:おいだから、勝手に話を進めるなって。

A:必ず来い。もし来なかったらお前のことをサキにバラすぞ。

B:それはやめろ。

A:はっ、そうだよな。
  だったらちゃんと来い。待ってるぞ。
  俺は3日後まで学校は休む。
  お前も心構えぐらいは必要だろ。

B:ちょちょっと待て待て、待てって。

A:今日はもう帰るよ。

B:いやだから……
  っておい、帰るってそこ窓。

A:楽しみにしてる。じゃあな!

B:あ! ちょおい! ここ4階!
  ―――……えぇぇ、うそ、普通に走ってったよ。











B:さて……と、陸奥第三支部に履歴書送るかぁ。











END