緊張







【登場人物】

A:男女不問。

B:男女不問。


アドリブ、言い回しの変更はご自由に。








【本編】


A:あー、緊張してきたな……。
  いやめっちゃ緊張してきたな。大丈夫かこれ。
  えぇ……大丈夫かな。大丈夫だよな。
  ちゃんと確認したし……。確認したよな。
  だってあれと……。
  あれ……と。あれ……だよな。うん。うん。大丈夫。
  えっ? いやでもほんとに? ほんとに大丈夫?

B:どうした?

A:え? ああ、ちょっと、急に緊張しちゃって。

B:なに、緊張してるだって? 
  大丈夫だよ。

A:そ、そうだよな。大丈夫だよな。

B:ああ、大丈夫だよ。

A:いや、でも……ほんとに?

B:え?

A:ほんとに大丈夫?

B:大丈夫だよ。そんなに緊張すんなって。
  なに今さらそんなこと言ってんだよ。

A:そりゃ緊張もするだろ。だってもうすぐなんだぞ?

B:それはそうだけどさ。
  もう今そんなになってもしょうがないだろ。

A:ええ……でも、やっぱりこえーよ。

B:大丈夫大丈夫。
  ほらほら、リラックスリラックス。

A:リラックス……リラックス……。

B:はい深呼吸してー。
  すぅー……はぁー……。

A:すっは、すっは、すっは、すっは。

B:浅い浅い浅い。呼吸が浅い。深呼吸深呼吸。

A:ああ、ごめん、深呼吸な、深呼吸。ごめん緊張しちゃって。

B:いいか?
  すぅー……はぁー……。

A:すぅぅぅぅぅーーー…………。
  …………。

B:吸い過ぎ吸い過ぎ。吸い過ぎだって。
  吐けよ。呼吸なんだから。

A:んぱはぁぁーーーー。

B:なにしてんのそれ。ただ息止めて吐いただけじゃん。

A:いやちょっと、ごめんほら
  やっぱり、緊張しちゃって……。

B:だからそんな緊張すんなって。
  どうしたんだよ。今までちゃんとやれてたろ?

A:そりゃ今まではな? 今まではやれてたよ。
  でも今日は違うじゃん。

B:まあな。
  今日は特別だもんな。

A:だろ?
  だからもうめっちゃドキドキしてんだって。

B:そんなに?

A:もうやばいマジで。口から心臓とび出そう。

B:そういうこと言ってるからどんどん良くない方向に行くんだよ。

A:えー?

B:まずは自分を信じないと。な?

A:自分を信じる。

B:そうそう。大事だよ。そういうの。
  ポジティブシンキング。

A:えーでも、そう言われてもなあ。

B:自分はやれるって信じることが大事なんだよ。
  ほら、まずは声に出して言ってみ。
  自分はやれる。

A:……自分は、やれる。

B:自分ならできる。

A:自分ならできる。

B:そう、できる。

A:できる。

B:失敗しない。

A:失敗しない。

B:絶対やれる。

A:絶対やれる。

B:できる。

A:できる。

B:できる!

A:できる!

B:できる!

A:できる!

B:できる!

A:できる! かも!

B:あ、やめろ。

A:でき! ない!

B:ああーだめだめだめ。

A:できないかもしれない。

B:やめろやめろ。
  
A:もう駄目かもしれない。

B:やめろって。

A:物言わぬ貝になりたい。

B:自信なくなってんじゃん。
  途中まで良い感じだったのに。

A:あああ。ちくしょう。
  どうしたらいいんだ。

B:どうしたらも何も、普段通りにしてればいいんだよ。

A:いやだからそれが出来ないから困ってるんだろ?
  こっちだって緊張したくてしてる訳じゃないんだって。

B:分かるけどさ。もっと肩の力抜けって。
  お前なら絶対大丈夫だから。

A:そ、そうかな。

B:そうだよ。ちゃんと確認したろ?

A:うん、した。

B:あれは?

A:うん……大丈夫。

B:あとあれ……と、あれか。

A:うん。それも平気だと思う。

B:なんだよ。全然余裕じゃん。
  心配する事ないって。
  もっと落ち着けよ。

A:そう、だよな。

B:全然大丈夫。いけるいける。
  お前ならやれるって。

A:ほんとに?

B:ほんとほんと。
  大丈夫だよ。

A:そうだよな。大丈夫だよな?

B:うんうん。

A:大丈夫だよな?

B:うん。

A:な?

B:うん。

A:なあ?

B:ああ。

A:なあって。

B:あー。

A:なあって、おい。

B:しつけーな。大丈夫だよ。

A:ちょ、しつけーなとか言うなよ!
  こっちはこれからなんだぞ!
  いくら友達だからって、
  言って良い事と悪い事があるだろ!

B:ああ、ごめんごめん。

A:お前のそういう一言がな、結果に響いてくるんだろうが。

B:悪かったって。ちゃんと応援してるから。

A:……もういいよお前。

B:もういいって?

A:帰れよもう。

B:ええ?

A:帰れって。こっちは真剣なのに、
  お前みたいなのがいると気が散るんだよ。

B:……それは、できない。

A:帰れって。

B:できない。

A:帰れよ。

B:できないんだ。

A:なんでだよ。

B:……言われたんだよ。

A:は? 
  ……なに? 言われた?

B:ああ。

A:なんだよ。言われたって。誰に?

B:ミチコに。

A:え?

B:ミチコに言われたんだよ。
  お前を見守っててやってくれって。

A:ミチコって……母ちゃんが……?

B:ああ、そうだ。

A:10年前から急に連絡がとれなくなった母ちゃんが?

B:そうだ。

A:「そうだ」って。なんだよそれ。母ちゃん今どこにいんだよ。

B:それは言えない。

A:はあ? ふ、ふざけんなよ。
  生きてるならさっさと会い……に……
  ――まさか……。

B:勘づいたみたいだな。そうだよ。
  ミチコに、もうひとつ言われた事がある。
  お前がちゃんとやれたら、会いに来るってさ。

A:嘘、だろ。

B:本当だ。

A:そんな。母ちゃん。

B:大丈夫か?

A:…………ああ。

B:――やれそうか?

A:……当たり前だろ。

B:そうか。
  もう帰らなくていいだろ? ここでお前を見守ってる。
  それが、役目だからな。

A:はっ……そうか。役目か。
  だったらこっちも、こっちの役目を果たさないとな。

B:もう緊張はしてないみたいだな。

A:ああ、おかげで肩の力が抜けたよ。
  とても晴れやかな気分だ。

B:それはよかった。

A:ああ、ありがとうな。

B:礼なんていらないよ。
  お前はやれるだけやってこい。

A:はは、そうだな。
  ――じゃ、行ってくるよ!

B:おう! がんばれよ!

A:ああ!








END