紹介
A:男 高校生。
B:女 高校生。黒髪ロングの女の子。かわいい。
C:男 高校生。
アドリブや言い回しの変更はご自由にどうぞ。
≪本編≫
C:なあ、おい、ちょっといいか?
A:ん? なに?
C:あのさ、ちょっと相談、っていうかお願いがあるんだけどさ。
A:いきなりだね。まあいいんだけど、君誰?
C:ああ、ごめん、俺、となりのクラスなんだけど。
A:へえ、そう。知らなかったよ。……で、なに?
C:だから、お願いごとがあって。
A:それは聞いたよ。内容を聞いてるんだ。
C:おお、話が早いな。
このクラスにさ、めちゃくちゃ可愛い子いるだろ?
A:可愛い子?
C:いやいやほらほら、黒髪ロングの子。わかるだろ?
A:え? ああー……、うん。いるね。
C:いるだろ?
でさ、ほら、あれだよ……紹介してくんない?
A:君に?
C:俺に。
A:何でそれを俺に頼むかな。
勝手に自分で声かければいいだろ。
C:だってあの子なんか、とっつきにくい雰囲気出してるじゃん。
声かけづらくって。
A:俺を通したって同じだと思うけど。
C:いやいや知ってんだよ。お前いつも一緒にメシ食ってんじゃん。
仲良いんだろ?
A:ああ、それは知ってるんだ。
C:たまに見てたからな。
あっ……ごめん。もしかして、彼女だったり?
A:いや、ただの幼馴染みだよ。
C:おお、そういうことか。
だったらひとつ頼むよ。
友達から、とかでいいからさ。
A:友達……。
C:そうそう。
ちょっとお近づきになりたいだけ。
A:そういうことなら、まあ、いいけど。
C:お、いいね。どうせまた昼休み、一緒に弁当食べるんだろ?
俺もまぜてくれよ。
A:じゃあ俺からもひとつ。
C:おう、なんだ?
A:彼女はとても人見知りなんだ。
C:ああ、そんなことか。大丈夫。
俺、結構誰とでもすぐに話せるから。
A:君の話をしてるんじゃない。
君が彼女をどう見てるのか知らないけど、
彼女と初めて話す時は、彼女を彼女と思わない方が良い。
C:なんだそれ。お前といつも楽しそうに弁当食べてんじゃん。
A:まあ、いいよ。他人に詳しく話すのは本人が気にするから……。
あとは自分で確かめてくれ。
C:んー、よくわかんないけど、とりあえず、また昼休みここ来るわ。
よろしく頼むよ。
――じゃーなー。
間。
A:昼休みだな。
B:ええ、昼休みね。
A:弁当を食おう。
B:そうね。
A:午後の授業はなんだっけ。
B:一発目から体育よ。
A:きついな。
B:ええ、うんざり。
一拍。
B:ところで、となりにいる人は誰?
A:ああ、となりのクラスの生徒で、お前を紹介してくれって頼まれたんだよ。
B:へえ、そう。私に断りもなく?
A:良い機会だと思ってね。お前の交友関係を広げる。
B:頼んでないわ。
A:頼まれてないからね。
ほら、挨拶して。
B:嫌よ。
A:練習しただろ。
ゆっくりでいいから。
少しずつ慣れていくんだ。
B:なに? 人をリハビリ患者みたいに扱わないで。
挨拶ぐらい余裕よ。
A:さっきから目線を合わせようともしないのに?
C:なあ、ちょ、ちょっと。ごめん。
なんか、ふたりで盛り上がってるとこ悪いんだけどさ。
俺を仲間外れにしないでくれよ。
A:ああ、ごめん。じゃあ君から挨拶してみてくれ。
慎重に。様子を見ながら、少しずつだ。
C:なんなんだよお前さっきから……。
まあいいや。
――あの、俺となりのクラスなんだけど、
顔くらいは見たことあるかな? 合同教室で何度か一緒になったと思うんだけど。
前から仲良くなりたいと思ってたんだよね。
よかったら友達に、とか、どうかな。
B:……あ…………ぁぁ…………ぁ…………ウホホ。
C:えっ?
A:まずい。
B:ウホ、ホホッ、ホッ。
C:えっ、えっ、なになに、こわいこわい。
A:君は喋るな。
C:あ、うん。
B:ホッ、ウホホ。ホッ、ホッ。
A:よーしよし、落ち着け落ち着け。
大丈夫だ大丈夫だ。戻れ……戻れ。
B:どう? 挨拶ぐらい余裕でしょ?
A:ああ、やっぱり話してるつもりだったんだ。
B:うん。
A:そうか。最高の自己紹介だったよ。
B:まあね。
C:えっ、ちょごめん、なんか今、ゴリラみたいにならなかった?
A:おい。
C:え?
A:慎重にって言ったろ。
様子を見ながらって。
C:えっ、あ、ごめん。
A:情報量が多過ぎる。
少しずつだ。
C:いやいや、ちょっと待てって。今のはいったい。
A:彼女は人見知りなんだよ。
C:そういう問題?
A:見ての通り、彼女は初対面の相手に対して、
ゴリラになってしまうんだ。
C:ゴ、ゴリラに?
A:ああ。
C:確かに。さっきのは紛れもなくゴリラだった。
A:だろ?
まあ、正確には初対面にって訳じゃないんだけど、
今はそれでいいよ。
C:なんか、変わってるんだな。
A:彼女と友達になりたいんだろ?
C:あ、ああ、もちろんだよ。そのつもりで来たんだ。
初対面に、ってことはつまり、仲良くなっちゃえばいいんだろ?
A:うん。そうだね。
俺も協力するから、一緒にゴリラの向こう側へいこう。
B:ねえ、ちょっとあなた達。
さっきからゴリラゴリラって、もしかして私のことを言っているの。
A:そうだけど。
B:失礼じゃないかしら。女子に向かって男二人が言うこと?
A:女子には言ってない。ゴリラに言ってるんだよ。
B:どこにゴリラいるのよ。
A:お前だよ。
B:あら、言うわね。
C:なあおい、もしかして自覚がないの?
A:自覚はあるんだよ。よく人に言われてるから。
でも、彼女にはゴリラになっている時の記憶がないんだ。
タチが悪いだろう?
記憶が無いから、反省することもできないんだ。
C:でも、どうしてお前にはゴリラにならないわけ?
A:俺は幼馴染みだからね。彼女の生活空間に溶け込んでいる存在なんだ。
その辺の石ころと同じくらいの認識なんだよ。
……困ったことにね。
C:困ってんの?
A:こっちの話。
とにかく、もう一度だ。
今度はゆっくり。一言で済ませるんだ。
C:ああ。分かった。
A:じゃあ、いいか?
B:なによ。
A:もう一度、彼がお前に挨拶する。
なるべくゴリラにならないように意識しろよ。
少しずつでいいから、答えられることだけ答えるんだ。
B:またそれ?
さっきしたじゃない。
言ったでしょう。挨拶ぐらい余裕だって。
A:そうだな。でもお前さっきもゴリラになってたから。
B:なってたの?
A:ばっちりな。
B:ああ、そう……じゃあ、まあ。
私も練習に付き合ってあげるわ。
A:その意気だ。
B:かかってきなさい。
A:準備は良いみたいだね。
よし、いけ。
C:ああ。一言、一言……。
――よろしく!
B:……あ…………ぁぁ…………ぁ…………ヨ……ロ……。
C:喋った。
A:喋ったな。
C:次は?
A:続けて。焦らずに。一言ずつだ。
C:うん。
――友達になろう!
B:ぁぁ…………ぁ…………ウホホ。
C:あっ。
A:いや、まだだ。
B:ウホ、ホッ……と……モ……ウホホッ……ダ……チ……。
A:友達って言った?
C:友達って言ったね。
A:すごい進歩だ。よし、続けていこう。
C:うん。
――今日一緒に帰らない?
B:……ぁ…………ウホホ!
A:まずい。踏み込み過ぎた。
B:ホッ! ウホホ! ホ! ホホ! ホア!
C:ヒィッ。こ、こわい。
A:怖がるな。彼女を受け入れろ。
もう少しなんだ。
C:う、受け入れろって言われても。
A:友達になりたいんだろ?
B:ホホ! ウホ! ホ!
C:いや、ゴリラと友達になりたいわけじゃ……。
あ、でも、そうか。
A:どうした?
C:分かったよ。彼女と、打ち解ける方法が。
A:それは?
C:ああ。それは、――俺自身がゴリラになることだ。
A:言ってる意味が分からないぞ。
B:ウホ、ホ、ホホ。
C:よし、よし。届け、この想い。
――ウホホ! ウホ! ウホホ!
A:うわ。
C:ウホホ! ホホホ! ウホ! ホ! ウホ!
B:ねえ、ちょっと。
A:なに?
B:彼、もしかして頭おかしいんじゃない?
C:ホ!?
A:そうだね。正直俺も驚いてるよ。
B:突然ゴリラになるなんて、気味が悪いわ。
C:――……折れた。
A:何が?
C:心が。もういいよ。お近づきになるのは諦めるよ。
A:そうか。それは残念だね。
もしかしたらと思ったんだけど。
C:悪い、俺には無理だったみたいだ。自分の教室に戻るよ。
A:こちらこそ付き合わせて悪かったね。
またいつでも。
C:ああ、じゃーな。
間。
A:彼はお前のせいで傷ついたみたいだ。
B:人のせいにしないでくれるかしら。
あなたが勝手に連れてきたんでしょう?
A:あとでもう一度謝っておくよ。
B:そもそもの話だけれど、私は新しい友達なんていらないわ。
A:そうだね。彼には悪いけど、俺も正直それはどうでも良かった。
B:じゃあどうして?
A:友達どうこうじゃなくて、ゴリラになるのを何とかしようと思ったんだ。
B:でも、あなたには関係ない事でしょう。
こうやって話しているのだし。
A:関係あるんだよ。
俺に対してゴリラにならないのは、俺が幼馴染みだからだ。
B:それのどこに問題があるって言うの?
A:その先にいきたいってことだよ。
B:つまり?
A:お前が好きってこと。
B:……ウ……ウホホ。
A:――やっぱりね……。
fin