宿敵
【登場人物】
A 男。
B 男。
アドリブや言い回しの変更はどんどんどうぞ。
【配役表】
A:
B:
【本編】
A:そこで高橋の奴が海に落っこちてよー、携帯から財布までビショ濡れになってんの。
B:マジかww
A:もうみんなで大爆笑よ。
B:あいつも馬鹿だからなあ、一緒にいて飽きないよなあ。
A:そうなんだよ。ああ、高橋といえばさ、この前あいつと話してて、
目玉焼きに何かけるって話になったのよ。
B:ほうほう。
A:そしたら、ケチャップとか言い始めてよ。
B:えええ、ケチャップ?
A:そうそう、それはないわーって言ってたんだけど、
もう「俺んちは昔からこうだからー」とか言って聞かねえのよ。
B:いやあ、ケチャップはねえなあ。
A:だろー? 目玉焼きには普通醤油だよなー?
B:……えっ?
A:え?
B:え、なに、ちょ、もう一回。
A:ん? ああ、だから目玉焼きには普通醤油だよな。
B:……え? 目玉焼きに?
A:醤油。
B:正気かお前。
A:正気じゃねえよ醤油だよ。
B:いや、いやいやそういうのいいから。え、なにお前、目玉焼きに醤油かけんの?
A:いやかけるでしょ。ていうか醤油以外なにかけんのよ。
B:塩だろ。
A:はぁ!?
B:塩でしょ。
A:いやいや何言ってんのお前。目玉焼きに塩? それおかしいよ?
B:いやいやいやいやいや、醤油の方がおかしいからね?
普通に考えて目玉焼きには塩だから。
A:おかしいおかしい。醤油だって絶対。
B:いやいや塩だね。
A:醤油だって。
B:塩だ。
A:醤油だ。
B:塩。
A:醤油。
B:塩。
A:醤油。
B:塩!
A:醤油!
一拍
B:塩ォ!!
A:――クッ。……なんだよ、……離せよ。
B:目玉焼きには……塩だ……。
A:離せって言ってるんだ。
B:何故分からない。目玉焼きに醤油をかけることの……愚かさが!
A:離せ……。
B:目玉焼きには塩なんだよ! 塩じゃなきゃ、駄目なんだ!
A:離せ。……それともこの腕、そんなにいらないのか?
B:――ッ! くぅ!
A:ほう、なかなか良い反応じゃないか。
あとコンマ数秒遅れていたら、二度と食卓塩のキャップを開けられなくなっていたぞ。
B:やる気、みたいだな。
A:突っかかってきたのはお前のほうだろう?
B:だったら久しぶりに。
A:ひと暴れするか。
B:アライメントフューチャー第942話 【宿敵】
B:ひとつ、聞かせてくれないか……。
A:なんだ。
B:なぜお前は組織を裏切ってまで――。
A:裏切ったつもりはない。嫌気が差したから抜けただけだ。
B:そんな簡単なものだと思っているのか?
A:知ったことか。俺がどう在るかは俺が決めることだ。
B:組織はそうは思っちゃいない。
A:――。クク……クハハッ。
B:なにが可笑しい。
A:俺からしてみれば、お前の方がどうかしている。
B:どういう意味だ。
A:考えたことはないのか? お前が憎む醤油。その存在の意味するところを。
B:なんだと?
A:醤油。そう、醤油だ。
醤油のあのしょっぱさが、どこから来ているのか、お前は知っているのか?
B:な、に?
A:ククク、醤油の原料は大豆だ。それは知っているだろう?
だが、あのしょっぱさはどこから来ると思う?
大豆をいくら発酵させたとしても、
あれほどのしょっぱさを生み出すことは……できない。
B:まさか……。
A:そう、そうだ。もう分かっただろう?
B:まさか……嘘だ……。
A:ククク、信じられんのも無理はない。醤油のしょっぱさ。
それを生み出しているのは紛れもない――
B:やめろ……。
A:認めたくないか。だがこれは事実だ。
醤油のしょっぱさの根源、それは――
B:やめろ!
A:塩だ。
B:嘘だ!!
A:クハハ!! 分かるぞ! 俺もそうだった!
お前らが憎む相手を、お前ら自身が生み出しているのだ!
そうやって膨張を繰り返した結果が、今の組織だ!
B:嘘だ……。
A:嘘なものか。組織を抜けた今、疑念は確信に変わった。
B:黙れ……。お前の言う確信など、誰が信じるものか。
A:信じてくれとは言わないさ。だが、俺が組織を抜けた理由にはなった。
B:もういい。お前はもう、俺の知っているお前じゃない。
A:ほう。
B:俺は、俺はお前を……倒す!
A:クハハ!!
B:いくぞ! 一の陣! 塩羅鳳凰斬《えんらほうおうざん》!!
A:そんなもの、で!
B:――なっ! 受け止めた、だと!?
A:甘い! 甘すぎる! 塩と呼ぶにはあまりにも!
B:くぅッ!
A:そんなものなのか?(嘲笑)
B:二の陣! 塩衝塩覇斬《えんしょうしょっぱざん》!!
A:そんなものなのかと――
B:くらえぇ!
A:言っている!!
B:ぐぁぁっ! ば、馬鹿な……!
A:そろそろこちらからいくぞ。――ソイ・ディルティミット。
B:な!?
A:ソイ・ディルティミットは音速の刃。目視したその瞬間、お前の身体はまっぷたつだ。
B:くっ! 速い! まともに避けたんじゃ間に合わない。
来る……来るぞ…ここだ! 塩雷《しょうらい》!!
A:ほう、やるな。だが……。
B:こんなもん、カスリ傷だ。
A:あまり、俺を失望させるな……。
お前は信じているのだろう? 自分の力を。技を。覚悟を!
B:――くっ。
A:ならばその全てをぶつけてみろ。特異塩例第零号《とくいしょうれいだいぜろごう》!
B:その名で俺を呼ぶな。
A:クク、過去を忘れたいか。だが過去を変えることはできん。
あの災厄をただひとり生き延びたお前に、忘れることなど許されんのだ!
B:黙れ。
A:災厄を生き延びた英雄……か。大層なことだな。
真実を知る者は全て死んだ。そう、お前が殺したからだ!
B:黙れ!
A:貴様は何の為に戦う! 組織への忠誠か? 敵への憎しみか?
そうじゃない……負い目だ。
お前は自分の過去を忘れるために、常に戦いの中に身を置いている。
B:違う! 俺は、俺の大切な人達を守るために! 戦う! たとえこの身がどうなろうとも!
A:それが負い目だと言っているのだ。
かつての同胞を手にかけた報い。それをお前は求めている。
仲間のためにという免罪符をひっさげて、死に場所を欲して彷徨う亡者にすぎん。
B:お前に何が分かる。
A:分かるさ。お前は、もうひとりの俺だ。
B:なに?
A:特異塩例第零号。俺と共に来い。
組織は狂っている。お前はあそこにいるべき存在じゃない。
B:何を言っている! 組織には仲間がいる! 俺を支えてくれる仲間が!
A:仲間……か。ひとつ話をしようか。お前のチームにひとり、女がいたな。
B:なぜ、それを。
A:ひどくお前を慕っているようだが、特別な間柄なのか?
B:――彼女に、何をした。
A:なに、手荒な真似はしちゃいないさ。今頃海の見える宿で刺身でも食っているんだろう。
――わさび醤油でなぁ!
B:――ッ! 下衆が!!
A:クハハッ! 憎いか! この俺が!
仲間を守るなどとよく言えたものだ! お前に仲間だと? 思い上がるな。
お前は孤独だ。孤独でなければいけないのだ。
B:彼女を解放しろ! 今すぐにだ!
A:それは、お前次第だ。
B:貴様ぁ!
A:クク、少しはやる気になったようだな。
B:塩陣《えんじん》制御解除! 第三から第八!
A:ほう、八の陣まで解除できるようになったか。
B:これが……俺の、全力だ。
A:ならばこちらも本気でいかせてもらおう。
B:いくぞ!
A:かつて災厄と謳われたその力。存分に楽しませてもらおうか!
ソイ・ディストーション。
B:――なっ。
A:遅い。
B:右!?
A:上だ。
B:ぐは!! ば、ばかな。
A:遅い、軽い、弱い。ひどいものだ!
B:塩陣制御解除! 第十二!
A:何!?
B:そこぉ!
A:ハッ! 隠し種を持ってきたか! だが!
B:くらえぇ!
A:甘い!
B:ぐ! うう!
A:まさか十二まで解除できるとはな! しかし、そろそろ限界か。
もう自我を保つのもやっとなんじゃないのか?
B:クソッ! なぜだ! なぜそれほどの力を持ちながら!
A:何度も……言わせるな!
B:ぐあぁ!
A:……理解しろ。お前では、どう足掻いても俺には勝てん。
B:はぁ……はぁ……。
A:もうよすんだ。それ以上の解除状態での戦闘は――
B:塩陣制御……解除……。第……二十四。
A:馬鹿な!
B:おらぁ!
A:く! 重い! ぐ、うう、ぐはぁ!
B:ヒャッハァ!
A:ソイ・ディストーション!
B:遅ェ!
A:ぶは!
B:ヒャハハハ! 遅い! 軽い! 弱い! ひでえもんだなあ!!
A:く……強い。
B:さっきまでの威勢はどうしたぁ! おら! おらぁ!
A:ぐ、ぶは!
B:ヒャハハハ! 脆い! 脆いなぁ!
A:ぐ……。力に、呑まれたか。懐かしい姿だ特異塩例第零号。
B:ああー、良いぜェ。悪くない気分だ。
A:無垢《むく》にして苛烈《かれつ》。全てを否定する力の奔流。
お前は、やはり……。
B:なぁにをブツブツ言ってやがる。神への懺悔か?
だったら無駄だぜぇ? 神が許しても、俺が許さねえからなあ。
お前は八つ裂き決定だ。全身の皮を剥いだあと、たっぷり塩を塗り込んでやるよぉ!
ヒャハハハハハ!!!
A:ソイ・ディルティミット!
B:ハッハ! んなもん避けるまでもねぇんだよぉ!! おら!
A:ソイ・ディルティミットを片手で弾くか……。
やはりお前を組織に置いておくのは危険過ぎる。
B:だからなんだ? まさかこの俺を捕らえるってんじゃねえだろうなあ。
出来るのか? お前に?
言っとくが俺、お前より相当強いぜ?
A:できるさ。
B:ハッ! 笑わせてくれるねえ。
A:仲間のために戦う、か。
ならば俺は、お前のために戦おう。
B:訳のわからねえことを。
A:プロジェクトネームHAKATA。
俺とお前が背負うべき……十字架の名だ。
B:なんだと?
A:なに、気にするな。少し昔を思い出しただけさ。
……さあ始めようか。二人だけの、最初で最後の舞踏曲《ロンド》を。
B:次回予告。
A:運命を分かつ二人。その先に見えるものとは。
B:すべてを知る男はただひとり窓辺で嗤う。
A:麺カタこってり派。
B:細麺あっさり派。
A:相容れぬ二人の戦いは続いていく。
B:アライメントフューチャー第943話 【邂逅】
A:……なあ、俺は、いつだってお前の――。
To Be Continued