占い
【登場人物】
A 不問 占い師。
B 男 客。
男がAを演じる場合オネエっぽく。
アドリブや言い回しの変更はどんどんどうぞ。
【配役表】
A:
B♂:
【本編】
A:では、次の迷える子羊はどんな方かしら……どうぞ、入ってきなさい。
B:失礼しまーす。
A:悪魔が来た。
B:えええ? ちょ、何か言いました? あ、悪魔?
A:ああいえいえ、こちらの話。
まあどうぞ、おかけになって。我が占いの館にようこそ。
B:あ、はい……。
A:(小声で)いやぁ久々のヒットだわ……。
まさかこんな大物が来るなんて。こんなの私の手に負えるかしら、
いやでも、やるしかない、そう、やるしかないのよ。逃げちゃだめ。
がんばれ、がんばれがんばれ、がんばるのよ私……。
B:ちょっと、何をぶつぶつ言ってるんですか? こ、怖いんですけど……。
A:なんでもない。なんでもないのよ。そう、あなたは何も悪くない……。
(咳払い) それで? 今日はどういったご用件で?
B:ああ、はい、実はですね。
A:なるほど、それは悪霊の仕業だわ。
B:まだ何も言ってませんよ。
A:言わなくても分かるの。だってさっきからアナタのうしろに……。
B:うしろ?
A:いえ、なんでもないわ。
B:なんですかそれ。気になり過ぎますよ。
A:世の中には知らなくていい事のほうが多いものよ。
B:はあ……。
A:つまり、最近仕事にやる気が出ないと。
B:違いますけど。
A:ええ、違うわよね。違うと思った。……つまりあれね、異性との出会いが
B:いえ違います。
A:そうね、違うわ。もちろん違うに決まってるじゃない。
B:あ、でも、あながち間違ってはいないですね。
……実は、最近恋人とうまくいかなくて……。
A:チッ。
B:え、今舌打ちしました!?
A:いやそんなまさか、そんなことするわけないじゃない。
B:はあ……。
A:それで、私が言ったとおり、最近恋人とうまくいってない、と……。
B:あなたが言ったとおりではないですが、そういうことなんです。
A:なるほどなるほど、それでつまり、彼女とエロいことがしたい……と。
B:えええ、いや違いますよ!
A:――えっ……。
B:いや、えっ……て。
A:したくないの? エロいこと。
B:いやそういうことじゃなくてですね。
A:したくないの?
B:……いや……したい、ですけど。
A:はいというわけでこちらドン。
B:な、なんですかこれ。
A:睡眠薬よ。
B:いかがわしい!!
A:大丈夫、安心して。すごく強力なやつよ。
B:なにが大丈夫なの!?
A:ひとビン使えばゾウでも一週間は起きないわ。
B:こわいこわい! 犯罪じゃないですか!
A:今ならお値打ち価格八千円。
B:なんかリアルな値段だし買わないですよ!
A:――えっ……。
B:さっきからそのちょっと溜めてからえっ……て言うのなんなんですか。
A:――えっ……。
B:いやだからいいですって。
A:まったく、しょうがないわね……じゃあ、これならどう? はい。
B:なんですか、これ……ネックレス?
A:ただのネックレスじゃないわ。これを、こう持って……。
いい? 先端の石を目で追って。
B:あ、はい……。
A:――アナタはだんだん眠くなる……アナタはだんだん眠くなる……。
B:いやいやいや、今時そんな古臭いので
A:ぐぅぅぅぅ。
B:お前が寝るんかーーい!!
A:はっ! ……どう? すごいでしょ?
B:いやいや、自分が寝ちゃったら駄目でしょ。
A:何よさっきから文句ばっかり言って。困ったお客さんね。
B:困ってるのはこっちですよ……ていうか、ちゃんと占いできるんですか?
A:あら、なに、疑ってるの? よくないわよ、そういうの。
そういう人を疑う心が、アナタのよくない所なの。
自分の持っている価値観がすべてだとは思わないこと。
相手の言葉にも耳をかたむけることが、アナタには必要なのよ。
B:は、はあ、なるほど。
A:いい? もう一度言うわ。アナタのその人を疑う心。
それはね。とてもよくないことなの。
それはアナタの心が穢《けが》れている証拠なの。
B:けが、れ?
A:そうよ。というわけでこちら。よいしょっっっと、はいドン。
B:なんですかこれ……壺?
A:ただの壺じゃない、ただの壺じゃないの。
アナタの心の穢れ。それをこの壺は吸い取ってくれるの。
アナタが今まで犯してきた罪、過ち。悪いことをぜーんぶ吸い取ってくれるのよ。
B:いやでも、僕今までそんなに悪いことなんて……。
A:今のアナタじゃない。今のアナタじゃないの。アナタの……、(溜めて)前世。
B:前世!?
A:そう前世。
B:前世とか分かるんですか!?
A:もちろんよ。当たり前じゃない。
B:え、じゃあじゃあ、なんなんですか? 僕の前世って。
A:そりゃもうアレよ、ひどいもんよ。
B:いやだから、なんなんですか? 僕の前世。
A:知りたいの?
B:知りたいです。
A:後悔しない?
B:しないですよ。
A:本当に?
B:しないですって、もったいぶらないで教えてくださいよ。
A:仕方ないわねえ、まったく。
……そこまで言うなら、まあ、教えてあげようじゃない……。
え〜っと、アナタの前世は、あの〜、もうアレよ、あの〜……そうそう。
あのアレ。……うんこよ。
B:うんこ!!?
A:そうよ。
B:そうよ。って、ちょっとひど過ぎないですか!?
前世がうんこって有り得るんですか!?
A:さっきから臭いがハンパじゃないのよ。
B:臭いまで!?
A:分かる人には分かっちゃうのよ。でも安心しなさい。
そんなアナタの前世も、この壺があれば大丈夫だから。
B:なにがどう大丈夫なんですか。
A:そりゃもうグングン吸い取ってくれるわ。臭いのもとから分解消臭よ。
B:さっき過ちとか罪とか言ってたのに! 僕の前世分解されちゃうじゃないですか!
A:今ならこの壺、お値打ち価格二万円よ。
B:高いよ! 高いし買わないよ!
A:いいえ、買わなきゃ駄目よ。消臭できないわよ。
B:だから消臭ってなんなんだよ!
A:くさいのよ! アナタさっきから! クセェ!!
B:それはあんたがうんことか言うからだろ!!
A:ええい黙れ黙れゴチャゴチャと! 分解されなさい!
そして買いなさい! 壺を! 買え!!
B:なんだなんだ!! さっきから!
こんなの詐欺じゃないか!! 人を馬鹿にしやがって!!
A:ついに本性を現したわね!
B:本性!?
A:悪魔め……。
B:はぁ!? 馬鹿馬鹿しい! このインチキ占い師め!! 僕は帰るぞ!!
A:ちょ、ちょっと待ちなさいアナタ!!
B:なんだよ!
A:占い料、五万円いただきます。
B:いい加減にしろ!!
end