幼馴染



A:男 高校生。

B:女 高校生。黒髪ロングの女の子。かわいい。


自然体な雰囲気で、ゆっくり読んでください。
アドリブや、言い回しは、どんどんどうぞ。
所要時間12分前後です。
  





≪本編≫


A:昼休みだな。

B:ええ、昼休みね。

A:弁当を食おう。

B:そうね。

A:午後の授業はなんだっけ。

B:一発目から体育よ。

A:きついな。

B:ええ、うんざり。



(間)



A:ところで、言って置きたいことがあるんだけど。

B:なに?

A:彼女ができた。

B:そう。

A:うん。

B:ごめん、よく聞こえなかった。

A:ああ、うん。彼女ができた。

B:ごめんもう一回。

A:彼女ができたんだ。

B:ああ、彼女……。

A:うん。

B:そう。正夢になるといいわね。

A:夢じゃない夢じゃない。

B:え、きのう見た夢の話をしていたんじゃないの?

A:してないしてない。するとも言ってないし。

B:夢じゃないの?

A:夢じゃないんだよ。

B:そっかあ。で、なんだっけ?

A:ああ、彼女ができたんだ。

B:え、ごめんもう一回言って。

A:彼女ができたんだ。

B:彼女?

A:うん。

B:そう。高校生なのにエロゲなんてやらないでよ。

A:違う違う。現実で。

B:現実で?

A:うん。

B:リアルで?

A:リアルで。

B:そっかあ。彼女かあ。

A:うん。

B:そっかあ。よかったじゃない。

A:うん。一応お前には言っておこうと思ってさ。付き合い長いし。

B:そうね。幼馴染みだものね。で、ちゃんと世話できそう?

A:世話? ん、ああ、まあお互いよく知らないトコからのスタートだけどね。頑張るよ。

B:うん。ちゃんと餌あげないと駄目よ? すぐ死んじゃうから。

A:あ、ちなみに彼女人だからね?

B:虫とかじゃないの?

A:違う違う、人だよ人。

B:ああ、そうなんだあ。ちゃんと人の形してる?

A:してるしてる。

B:複眼は?

A:ないない。

B:そっかあ。よかったじゃない。

A:うん。ありがとう。

B:そっかあ。どうやって付き合ったの?

A:ああ、向こうから告白されてさ、全然知らない子だったんだけど。

B:うんうん。

A:駅で急に言われて驚いちゃったよ。

B:待って、その彼女っていうのは喋るの?

A:なんか根本的に勘違いしてるね。人間だよ?

B:人形とかじゃなくて?

A:違う違う。人だよ人。

B:ヒューマン?

A:ヒューマン。女の人。

B:ウーマン?

A:ウーマン。

B:そっかあウーマンかあ。そっかあ。どんな人?

A:すごく可愛らしい子だよ。

B:そっかあ、でも可愛くても色々大変じゃない?

A:まあね。でもその辺は追い追い頑張るよ。

B:でもやっぱ介護とか大変って聞くよ? 勉強しなきゃ。

A:あ、ちなみに同い年だからね?

B:老婆じゃないの?

A:ああ、ごめんね。年齢言ってなかったね。同い年なんだよ。
  しかも介護って、そうとう上を想定してるね。

B:そうとう上じゃないの?

A:違う違う。そんな上の人とは……いやまあそういう人もいるかも知れないけど。

B:そういう人じゃないの?

A:俺は違うね。

B:違うのかあ。

A:うん。違うんだよ。

B:ピチピチ?

A:ピチピチ。

B:そっかあ。ピチピチかあ。よかったじゃん。

A:うん。ありがとう。

B:つまりあなたは、同い年の人間のピチピチの女の子の可愛らしい彼女ができたってこと?

A:うん、なんかちょっと日本語に違和感あるけどそんな感じ。

B:にわかには信じ難いわね。

A:なんで?

B:だってあなたブサ……ほら、顔が……エキサイティングじゃない。

A:オブラートに包もうとして劇的な表現をしたね。
  なにエキサイティングな顔って。どういうこと?

B:ブサイクってことよ。

A:言っちゃったよ。

B:略してエキ顔。

A:エキ顔って言うな。なんか滴ってそうじゃん。

B:滴ってないの?

A:滴ってないよ。なにが滴るんだよ。

B:血。

A:怖いよ。

B:彼女もエキ顔なの?

A:エキ顔じゃないよ。可愛いよ。

B:そうなんだ。写真とかある?

A:ああ、ごめん。ない。

B:そっかあ。残念ね。

A:今度撮ってくるよ。

B:いや、会わせてよ。

A:お前に?

B:うん。

A:なんで?

B:見てみたいし。幼馴染みとして。

A:いいけど、お前、すごい人見知りするじゃん。

B:そうかなあ。

A:そうだよ。お前知らない人に話しかけられるとゴリラみたいになるじゃん。

B:よく言われる。

A:じゃあ治そうとしろよ。

B:別にいいかなって。

A:付き合い長い俺は慣れてるけど、初対面の人にはよくない病気だと思われるぞ。

B:友達には普通に喋れるわよ?

A:その友達になるスタートラインがゴリラだったら、
  そもそも友達になるのが難しいんじゃないか。

B:じゃあ治すわ。ちょっとシミュレーションしましょう。

A:俺が彼女役?

B:うん。おねがい。

A:わかった。じゃあ出来るだけゴリラにならないように意識しろよ。

B:頑張ってみる。

A:よし、じゃあはい、イメージしてー。イメージしてー。
  いくよー。……『始めまして。彼女です』

B:……あ…………ぁぁ…………ぁ…………ウホホ。

A:はいストップ。

B:ウホ、ホホッ。

A:はいはい戻って戻ってストップストップ。

B:どうだった?

A:紛れもなくゴリラだったわ。

B:まじりっ気なしのゴリラ?

A:純度ヒャクパー。

B:ちゃんと意識したんだけどな。

A:うん、なんとなくそれは伝わってきた。

B:でもちゃんと自己紹介できてたでしょ?

A:ああ、一応話してるつもりだったんだ。

B:うん。

A:ある意味最高の自己紹介だとは思うけど。

B:よっしゃ。

A:喜ぶべき事態ではないんだよね。

B:やっぱ駄目?

A:駄目だなあ。

B:じゃあどうしたらいいって言うのよ。

A:それを俺に聞かれてもなあ。
  初対面だとゴリラになっちゃう幼馴染みがいるって説明することならできるけど。

B:嫌よ。私がゴリラみたいじゃない。

A:実際にゴリラみたいなんだからしょうがないだろ。

B:ほかに会う方法はないのかしら、その初対面のゴリラに。

A:おっと、問題をなすりつけようとしてるね。初対面のゴリラってなんだよ。

B:ゴリラじゃないの?

A:ゴリラはお前だろうが。

B:ひどい。こんなに可愛いゴリラがどこにいるって言うのよ。

A:否定しづらい事を言うなよ。内面の話をしてるんだよ。

B:あら? あらあらあら?

A:なんだよ。

B:あらあらあらあら? 今のは私のことを可愛いって思ってるってことよね。

A:そうだけど。

B:浮気ね。最低。

A:浮気のハードル低すぎるだろ。

B:彼女がいながらクラスメイトに欲情するなんて、ケダモノのすることよ。

A:欲情はしてないよね。

B:ケダモノが幼馴染みなんて寒気がするわ。
  どうせ私に乱暴するつもりなんでしょう。同人誌みたいに。

A:お前そういうのどこで覚えてくるの?

B:近所のおじさんよ。

A:そういうおじさんとは付き合わないほうがいいと思う。

B:あら? あなたに私のプライベートに口出しされる筋合いはないんだけれども。

A:いやそういうことじゃなくて……おっと。

B:なにかしら?

A:いやちょっとメールが。

B:どうぞ。

A:ああ……、あっ……。

B:どうかしたの?

A:……フられた。

B:(笑)

A:え? いま笑った?

B:笑ってないわ。どんなメールだったの?

A:それがさ。

B:うん。

A:ちょっと見て欲しいんだけど。

B:なにこれ? ゴリラの……写真?

A:うん。

B:ゴリラね。

A:ゴリラだよな。お前なにかしたろ?

B:私が?

A:お前が。

B:ゴリラと私になんの関係があるの?

A:いやだってお前ゴリラじゃん。

B:ゴリラゴリラって、いい加減にしてくれない?

A:お前……俺の彼女にゴリラアタックしたろ。

B:ゴリラアタックってなによ。勝手な造語を私に押し付けないで。
  私はただ彼女とお話を……ウホホ。

A:ほらほらほら、お前いま彼女と話をしてるとこ想像してゴリラになったろ。

B:言いがかりはやめてくれないかしら。私はゴリラになんかなっていないわ。

A:言い訳もはなはだしいな。ほら見てくれよ、彼女の本文。『ゴリラと仲良くね』

B:意味のわからない低脳な文章ね。

A:俺にはありありと意味がわかるのだが。

B:私には意味がわからないわ。

A:だろうな。お前には記憶がないから。

B:記憶?

A:ゴリラになってる時のだよ。

B:人を記憶障害みたいに言わないで。

A:お前はいつだって大事な時に記憶を失う。

B:なにを言っているの。

A:あの時だってそうだった。お前は初対面の時にゴリラになるんじゃない。
  自分に向けられた興味に対して臆病になってしまう。拒絶反応だったんだ。

B:なにを言っているのかわからないわ。

A:わからないだろうね。お前はいつもそうやってはぐらかす。

B:なにが言いたいの?

A:偽りの彼女を作ってまで、お前の気を惹いたんだよ。

B:つまり?

A:お前が好きってことさ。

B:……ウ……ウホホ。

A:やっぱりね……。


(間)


B:で、なんの話だっけ?





fin